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不思議な風景


JR保土ヶ谷駅に向かうには、
山のてっぺんから首都高・狩場線を
跨ぐ歩道橋を渡る。
歩道橋を渡り終えると階段を下る。
いつもの見慣れた風景。
もう20年も歩いている道。
…………………。

ん? おっと、今日は、この20年で初めての物に出くわしてしまった。
ヘルメットだ。
赤いヘルメット。
ヘルメット自体は珍しくも何とも無い。
問題は置いてある場所だ。
道路の上に置いてある。
忘れ物?
忘れて行く様な物じゃないだろう?
落としたら大きな音がするから分かるだろう、普通。

………。
事故?
壁のすぐ向こう側は狩場線である。
事故って、ヘルメットだけがここまで飛んで来た?
でも転がって来たら、頭頂部が下になって落ちないか?
これは、どう見てもきちんと置いてある。

アリエッティの新しいお家?
覗いてみれば良かったかしら?
またヘルメットだなんて随分大きい物を借りてしまったのねえ。
でも人間に見つかったら、引っ越さなければならないから、そっとしておいてあげて正解だったかも。
え? ニヘドンは人間じゃないから見ても大丈夫?
余計なお世話だ。ヽ(`Д´)ノ プンプン。

よく事故現場に花がたむけられているけれども、ライダー愛用のヘルメットをたむけたの?
どうも事故の事ばかり考えてしまうなあ…。
いかん。いかん。
もっと前向きなストーリーを想像しよう。
例えばこんな感じ。

理沙は、前から気になっていたバイト先の同僚の勇気君にデートに誘われた。
「 俺の家、横浜と言っても、すんごい山の上で。
すんごい不便な所なんだけど、夜景が綺麗に見えるのが、せめてもの取り柄かな。」
本当は、「 星に近いし。」と言いたかったが、流石にそれは余り気恥ずかしくて、口から音声にはならなかった。

2人は、みなとみらい地区を歩き回り、ポケモンの映画を見て、日がとっぷり暮れてから勇気のバイクに乗って、此処までやって来た。
理沙のヘルメットは、勇気の住んでいるアパートの隣のおばさんから借りた。
おばさんは言った。
「 それ、返してくれなくていいわよ。
ちょっと古くてさ。
あたしは新しい方を使っていて、もうそれは使わないから。
彼女用にずっと持っててよ。」

狩場線の上の歩道橋の一角は小さな公園になっている。
2人はベンチに並んで腰を下ろした。

理沙が言った。
「 何だ。夜景が綺麗だなんて言うから期待したら、こんな程度。」
勇気はうろたえた。
「 ご、ごめん。気に入らなかった? 」
「 気に入る訳が無いじゃない。
それに何ここ?
可愛いお店も何も有りゃしない。
デートでこれって、普通有り得ないし…。」
「 そ… そんなにハッキリ言う事ないじゃないか。」
「 ハッキリ言うわよー。
どうせ貴方はハッキリ言わなければ分からないタイプでしょ?
大体、何よ。こんな暑い盛りに女の子をバイクの後ろに乗せるなんて!
紫外線でジリジリ焼かれて、埃を被って、髪はもつれるし最悪じゃん! 」
「 バイクに乗る事は最初から言ったじゃないか。」
「 だからって、こんな酷い状態に何時間も女の子を置いておく神経が理解出来ない!
普通デートって車じゃない? 」
「 僕、車持ってないの知ってるだろう。」
「 あら! レンタカー借りれば? 」
「 さっきから普通、普通って言ってるけど、そんなに僕って普通じゃない訳?」
「 普通じゃないわよ。
よく釣った魚に餌はやらないって言うけど、貴方の場合、魚を釣るのに疑似餌すら使わない。
剥き出しの釣り針のどこに食いつく女がいるって言うの?
ついでだから言わせて貰うけど、大体、何、貴方のファッション・センス。
いつも皆が笑っているの感じない?
………………。」勇気の耳には、最早理沙のマシンガンの様な悪態は脳が受け付けなかった。
茫然と、遠くの港の方に視線をさまよわせていた。
隣に座って射撃訓練をしている生物は一体何なんだ?
勇気は悔し過ぎて泣けなかった。
数ヶ月ずっと温めて来た淡い恋心は一瞬で霧消した。

坂の下から車のヘッドライトがゆっくり上がって来た。
その車は、歩道橋の横手にある社宅の敷地の門を開ける為に停車した。
中から男が降り立った。
門扉に向かおうとしている。
突然、理沙が立ち上がり、目を細めて、その男を眺めすがめつした。
理沙は小走りに男の方へ向かった。
勇気は口を半開きにして理沙を眺めるしかなかった。
理沙は、先程、勇気を罵っていた時より5度程音程を上げた。
「 先輩? 」
男は顔を上げ、ビックリした様に理沙を見つめた。
「 あれ? 理沙ちゃん?
何で? 何でこんな所に居るの? 」
「 先輩! 先輩って、ここに住んでるんでしたっけ?
私ね、ちょっと知り合いの家に来たら、帰り道分からなくなっちゃって…。」
「 あ、何だ。じゃ駅まで送るよ。
乗ってよ。もう夕食食べた?
山手に遅くまで開いている美味しいお店が有ってさ、1度理沙ちゃんみたいな可愛い子と一緒に行きたいと思ってたんだ。」
理沙は、そそくさと車の助手席に乗り込むと、車はあっという間に勇気の視界から消えた。
理沙は勇気に一瞥もくれなかった。

勇気の思考回路は遮断された。
何も考えられず、一体どの位の時間が経ったのかも意識出来なかった。
携帯がメール受信のメロディーを鳴らした。
勇気は反射的にメールを見た。
理沙からだった。
「 言い忘れた事があった。
あたしを幾つだと思っているの?
ポケモンの映画って一体どう言う事?
明日からバイト先で会っても声をかけないでくれる?
あんたってサイテー! 」

勇気は携帯を閉じると、よろよろと立ち上がった。
ベンチには理沙が置いて行ったヘルメットが行儀良くしていた。
勇気は、思考回路が働かないまま、ヘルメットを持ち上げ、よろよろと暫く歩き、道端にヘルメットを置いた。
両手をヘルメットの上に乗せ、深いため息をつくとバイクの所に戻った。
バイクに乗る気は全く無かった。
バイクを押しながら、とぼとぼと歩いた。
歩いている内に、漸く泣ける気がして来た。
誰もいなくなった公園には白い満月が、やけに明るい光を投げかけていた。
狩場線は、ひっきりなしに車が行きかい、ヘッドライトとテールライトが滲んだラインを描いていた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

おいおいおい!
これって、交通事故の話より、どん底に落ちませんか?

やばいなあ…。
ニヘドンが幸福な恋愛体験が無いのを暴露してしまったみたいだなあ…。
みんな、恋愛頑張れよ!!
→つづきをみる
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神奈川フィル・コンサートマスター(超イケメン)を追いかけながら、あちこちのコンサートを巡り、周辺のレストランで食べまくり、裏道を歩き回り、ブログに書きまくっています!!
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